日本生物地理学会 2007年度大会ミニシンポジウム

次世代にどのような社会を贈るのか?

2007年4月日(日)15:30-18:00
立教大学7号館 7101号室(〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1)


[趣旨] (森中 定治)

  日本生物地理学会は,昭和3年(1928年)鳥類学者の蜂須賀正氏と 東京大学理学部教授で当時生物地理学の第一人者であった渡瀬庄三郎によって, 生物地理学を主な研究対象とした学会として世界で2番目に設立された.

  蜂須賀正氏は,平成15年(2003年)に開催された生誕百年の記念シンポジウムにおいて ”型破りの人” であったとの評がなされた.自己の信念と哲学に基づいて時代を駆け抜けた人であった. 渡瀬庄三郎は,区系生物地理学における旧北区と東洋区の境界を示す”渡瀬線”によって著名である. 特定外来生物として昨今問題になっているジャワマングースを移入したが, 当時困っていた野鼠やハブの被害を防ぐために生物学の知識を社会に役立てようとする情熱の持ち主であったことは否めない.

  このような創設者の意思とひととなりに思いを馳せると,この学会が学問としての枠に留まることなく, 生物学を社会に役立てることのできる学会であればと思う.生物学に関するフォーマルなシンポジウムの他に, 生物学にこだわらないこのミニシンポジウムをもつのはこのような理由による.

  昨年は,東京学芸大学の山田昌弘先生をお招きして,社会学の視点から現社会の様々な問題に切り込んで頂いた. 動物は食べることができれば生きていくことができるだろう.しかし,人間は食べることができるだけでは, おそらく生を次へとつないでいくことができないのではないか. 人間には「未来の希望」が食べることと同様に必要不可欠ではないか.この視点からの, 興味深い考察を含むご講演であった.詳細は先般出版された日本生物地理学会会報第61巻に掲載した. また九州大学の矢原徹一先生には,社会の様々な問題においてAかBかという二項対立ではなく, 多くの解決策はその間にあるということを具体的にお話し頂いた. またご自身の大学での環境保全への実際の取り組みについてお話し頂いた.

  少なくとも私は,希望をもって生きてきた.現在もそうである.他人と私は同じではないにしても, 現代の若者に希望を感じることはあまりに少ない.本年のミニシンポジウムでは, 希望のもてる社会へより明確な方向を示すため, 鳥類行動生態学者であり日本動物行動学会会長の上田恵介先生に「いじめ,差別,戦争はなぜなくならないのか?」 とのテーマで,人間の心の糧である「未来への希望」を縦糸に, 人間を対象とした科学の最近の成果である進化心理学を横糸に現社会の様々な問題に切り込んでいただくこととした.

  IPCC(気象変動に関する政府間パネル)の第4次報告によれば,気中の CO2 は予想以上に増加しているとのことである.人間が希望をもつためには, まずもって人間にとって希望とは何なのかを知る必要があるが,それは地球環境の維持とは切っても切れないと思う.

  地球環境の維持のための脱炭素というテーマに関しては国立環境研究所,京都大学,立命館大学,滋賀大学,文教大学, 神戸大学,東京工業大学,(株)日建設計,成蹊大学,東京理科大学,日本電気(株),富士通(株),日本電信電話 (株)産業技術総合研究所,筑波大学,早稲田大学,名古屋大学,(みずほ情報総合研究所)の共同プロジェクト 「脱温暖化2050プロジェクト」が企画され,2050年の日本において温室効果ガス70%の削減可能性が, 経済学者なども文科系学者も加わって検討された.このプロジェクトは,技術志向「ドラえもん型」シナリオと自然志向 「サツキとメイ型」シナリオと人間の志向性を明確に意識し両視点から進められたが, 二項対立ではなく両シナリオを組み合わせて柔軟に進められた. この研究プロジェクトリーダーを務められた(独)国立環境研究所前理事の西岡秀三先生に2050年, 日本の未来社会モデルをお話し頂く.

  我々は,どういう社会を今後の世代に贈るのか贈りたいのか, お二人のご講演をリラックスして存分に縦横にお話し頂きたいし, 我々もまたリラックスしてお話を拝聴したい.